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    コントローラー

    私は歩いていた。
    なにかを目指すわけでもなければ、なにか理由があるわけでもなく、
    どこかへ行くわけでもなければ、どこかから去るわけでもなく、
    私は歩いていた。
    ただ、歩いていた。


    ある日、私は灰色の町の灰色の通りを歩いていた。そこは両側にコンクリートの壁がそびえ立っていて、空は一本の線のようにしか見えなかった。壁にはところどころに窓が口を開けているが、ドアは一つもなかった。通りを歩いているのは私だけだ。
    しばらく歩くと、遠くに十字路が見えた。十字路の手前まで来た時、右の角からひょいと顔を出したものがあった。それは、一匹の黒い子猫だった。
    黒猫は建物の角から首だけを出して、無垢な緑色の瞳を何度か瞬かせた。それから「にゃあ」と一声鳴いた。私は歩みを止めた。
    黒猫はぴょんと角を飛び出し、私の近くまで寄ってきた。その人懐っこい様子に、思わず微笑んでしまう。私はしゃがみこみ、手を開いて見せた。黒猫は手に顔を寄せて匂いをかいでいる。「悪いが、食べるものは持ってないよ」と苦笑いしながら言うと、ぷい、とそっぽを向いてしまった。現金なやつだ。
    と、そこで、黒猫の足元から紐が伸びていることに気がついた。
    足にひっかかっているのだろうか? 私はそう思い、黒猫の後ろ足を見ようとした。
    その瞬間、襲われるとでも思ったのか、黒猫はぱっと退いて、私が歩いてきた道を駆け出した。止める間もなくどんどん逃げていってしまう。
    やはり足にひっかかっているのだろう、紐が曲がり角からするすると出て、黒猫の後をついていった。紐はかなり長く、黒猫が見えなくなってもするするするすると出てきていた。私はしばらくぼんやりとそれを見ていた。

    ようやく、ぴたりと紐が止まった。
    顔を上げると、曲がり角に男の子が立っていた。無垢な瞳はじっとこちらを見つめ、手にはポータブルゲーム機が握られている。紐の先端は、そのゲーム機に刺さっていた。
    「こんにちは」と私は言った。男の子は一度瞬きをして、それに応じた。
    「さっきの猫は、君が飼っているの?」と私は尋ねた。男の子は首を横に降った。そして黙ったまま、私をじっと見つめる。
    しばらく沈黙が流れた。男の子は微動だにせず、視線を私に刺したままだった。
    私はついに耐えられなくなり、「その、手に持っているものはなに?」と尋ねる。
    男の子は応える代わりに、口の両端を上げて、不気味に微笑んだ。そして、ぱっと身をひるがえすと、私が歩いてきた方へ駆け出した。

    その時、一瞬だけ見えた彼の首からは、紐が生えていた。

    紐は曲がり角からするすると出て、走る男の子の後をついていく。男の子が見えなくなっても、紐はするするするすると出てきている。私は呆然と立ち尽くし、それを見ている。

    再び、ぴたりと紐が止まった。
    曲がり角に、青年が立っていた。誠実そうな瞳でじっとこちらを見つめる彼の手には、ポータブルゲーム機が握られている。男の子の首から生えた紐の先端は、そのゲーム機に刺さっていた。
    「こんにちは」と私は言った。「こんにちは」と青年が応える。おや、と私は思った。さらに彼は「旅をしてらっしゃるんですか」と尋ねてきた。
    「いえ、ただ歩いているだけです」
    「そうですか。でも、それも立派な旅ではありませんか?」
    そう言って彼は笑った。私も笑って、「そうなのかもしれません、立派かどうかはわかりませんが……」と応じる。
    「あの」と私は言う。声が緊張しているのが自分でもわかる。「突然こんなことを聞くのもなんですが、あなたの手に持っているものは、なんですか?」
    その言葉を聞いた青年は、口の両端を上げて微笑んだ。思わずぎょっとする。
    が、彼はすぐに「これはコントローラーですよ。ほら、ここを見て下さい」と言って、それを私に向けた。「真ん中に画面があるでしょう。これがコードの先の本体の見ている景色ですよ。そして左のレバーで、前に進んだり、後ろに下がったり、向きを変えたりするんですよ」
    言いながら彼はレバーを動かして見せた。それに合わせて、画面に映った灰色の通りが動いた。
    「あとは、右にあるボタンを押して、首を振ったり、笑ったり、怒ったり、泣いたり、手や足を動かしたりするんです」
    「じゃあ、さっきの男の子は」
    「そうです。あれが本体です」
    それを聞いて、私は少し安心した。大きく息を吐いて言った。
    「なんだ、そうだったんですか。道理でおかしいと思いました」
    「そんなにおかしかったですか」
    「ものすごく不気味でしたよ」
    言いながら私は汗を拭った。
    「よくできているでしょう」と青年は笑顔で言う。「今、あれを動かすのに夢中なんですよ。ボタンの組み合わせや、順番に押したりすることで、様々な動きを見せるんです。それに、動かしているうちに新しいしぐさや表情が生まれたりするんです。一度、今までの成果を確認するためにも、誰かに見せて反応を見たかったんです」
    「それ、たちの悪いイタズラじゃないですか」
    「いやあ、まだまだ動かすのが下手だってことですね。上手く動かせば不気味には思われないはずです。そのためにも、もっと練習しないと……」
    「まだやるんですか」
    「もちろんですよ。朝から晩まで練習です」
    「えっ……そんなに長い時間やっているんですか?」
    「ええ。昔はそれほどでもなかったんですが、今はもうすっかりハマってしまって、寝る間も惜しんでコントローラーを握っています。それに、たまにやらなかったりすると、どうも落ち着かなくて」
    青年がいかにも楽しそうに話すのを聞いていると、まるで彼が壁の向こうにいて、必死にこちら側の私に話しかけてきているように感じた。
    そして彼はふとひらめいたらしく、明るい口調で言った。
    「あ、あなたもどうです? やってみませんか?」
    「えっ……」私は思わず眉を寄せた。「……いや、私は……」
    その様子を見た青年は、「そうですか……それは、残念です」と、心底残念そうに言った。彼には申し訳なかったが、私は彼に同情することもできなかった。
    「それでは私はそろそろ」
    「そうですか。それでは、良い旅を」
    青年は一転してにっこり微笑み、別れの挨拶を済ませると、私の歩いてきた方へ駆け出した。

    彼の首にはコードが生えていた。

    さて、まっすぐか左、どちらに進もうか。右の角からするすると出てきているコードが止まる前に、決めなければ。


    * * *
    初出:2006.10.21.
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      | 一話完結 | comments(0) |

      バナーつくってみました

       ふと思い立ち、2012年末から2013年始にかけてバナーなど作ってみました。すっかり忘れて一ヶ月くらいたっちゃいましたが、せっかくなので上げておきます。
       もしリンク貼るよーバナーほしいよーって方がいらっしゃったら、お好みのものをお持ち帰りください。(一応、直リンクはしないでください。)

      □88x31サイズ
      ・タイトルあり
      GIF : banner88x31.gif
      PNG / GIFアニメ

      ・タイトルなし
      GIF : banner88x31-notitle.gif
      PNG / GIFアニメ

      □200x40サイズ
      ・タイトルあり
      GIF : banner200x40.gif
      PNG / GIFアニメ

      ・タイトルなし
      GIF : banner200x40-notitle.gif
      PNG / GIFアニメ

      □特徴、コメントなど
      ・白くて薄いので白背景のサイトに貼るとめでたく埋もれます。
      ・PNG形式の需要があるのかわかりませんが用意しました。
      ・よく考えずに作ったので、GIFアニメは88x31の方がちょっとだけサイズが大きくなっています。
      ・そもそもタイトルなしはバナーとして成立していない気がします。単なる歯ブラシです。
      ・……書きながら、なんで作ったのかよくわからなくなってきました。
      ・総じて手抜き 手作り感を大切にしています。


      2013.1.28.
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        もくじ

        一話完結
        と言いながら前後編とかもあります。


        ■シリーズもの、同一テーマ、連作短編など
        『屋上の鍵』
        とある高校の屋上を舞台とした物語。

        『Kと僕』
        Kと僕のゆるいやりとり。

        『シナモン、ダメ』
        TさんとMさんのお菓子を巡るやりとり。百合要素含む。

        『部屋』
        様々な部屋を舞台とした1000字小説。

        『夜の茶会』
        とある喫茶店を舞台とした人々の関わり。


        その他、よくわからないもの、断片的なもの
        曖昧、不可解、たまにどろどろ。
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