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    旗を立ててばかりいる

     旗を立てましょう。0を1に、FALSEをTRUEにしておきます。この区画一般の法則に従って、三歩先に忘我する鶏の如く、三秒後の私は他人であるわけですから、足下に立てられた他愛ない旗によって、ひとつの回答を得ることが可能です。
     はい、もしくはいいえ。
     私はここを訪れたことがありますか?
     YESあるいはNO.
     私はこの旗を立てましたか?
     然り、そして否。
     私はこの旗を折るべきでしょうか。
     ○かつ×。
     これは旗ですか?
     そうかもしれないし、そうでないかもしれない。
     じゃあ、それはなに?
     これはひとつの回答です。回答は位置や姿勢や視点や気分によって意味が変容します。旗は立てられた瞬間に失われています。

     あなたの意思や意識や意図もまた同様に/非連続です。しかし「同様に」と/「非連続です」の狭間にある/非連続面/によって、思考の連続性は/失われます。/「あ、」と指差したあなたと/「え?」と振り向いたあなたがいます。/しかしあなたはいま/ひとりきりです。/不思議に感じたあなたは/旗を立てることを思いつきます。/なぜ思いついたか思い出せません。/何を思いついたのか思い出せません。/ただ旗がそこに立っているのを見ます。そこに仮初めの連続性が立ちあがり、すぐに揺らいで/消えます。/連続性が失われることにより、/あなたは/あ/な/た/に分割されます。/あ、は意思を持ちません。/な、には意識がありません。/た、は意図せずして足下に目印を描き出します。/つまり、旗を。

     棒が一本あったとします。葉っぱでしょうか。いいえ、葉っぱではありません。単子葉にも似ていますが、それはたわんだ二等辺三角形で、等しい角度を持つ頂点Bと頂点Cが棒に結ばれています。BとCから頂点Aに伸びる二辺はぴんとまっすぐに張っています。無風です。
     一本の棒のうち、二等辺三角形のついていない点の座標を(x,y)=(0,0)とします。棒は起点からy軸方向プラスに伸びている、つまりx軸上に直立しています。棒のもう一端の座標(0,2)に結び目Bがあり、もう一つの結び目Cは(0,1)にあります。頂点Aの座標は(1,3/2)です。長辺の長さは√5/2,人世一夜に、人並みに、富士山麓鸚鵡鳴くのでだいたい1.118といったところでしょうか。正三角形よりわずかにスリムです。
     あなたは同じ形の旗を持っています。左手と右手に、一本ずつ。それでは、あなたの左手の旗を頂点Aに立ててください。できない? なぜです? 宙空に旗は立てられないから? いいえ、旗はx軸上に立っていますが、xy平面上では倒れています。あなたはxy平面上に立ち、頂点Aに旗を立てればいいのです。頂点A´の座標は(2, 3/2, 3/2)になります。
     では次に、右手に持った旗を頂点A´に立ててください。できない? なぜです? 宙空に旗は立てられないから? 今度こそ空中でしょうって? ええ、今度も空中ですよ。頂点Aだってそう、単なる空間上の座標です。xy平面は地面ではありません。どちらの旗も空間上に静止して、しっかり立っているでしょう? あなたが立てたんですよ。もう一本立てることだって、あなたにとっては造作もないことです。一本目の旗と平行に、ただし上下は逆方向に立ててください。いえ、逆さまに立てるのではありません。一本目が逆さまなのであって、三本目はあなたの立っている向きと同じですよ。どうしても抵抗があると言うのなら、邪魔な一本目は抜いてしまいましょう。ただし、三本目を立ててからですよ。
     では続けて、抜いた旗を立てましょう。さっきと同じ要領で、二本目とは逆方向に。二本目を抜いて五本目にしましょう。三本目を抜いて六本目、四本目を抜いて七本目。頂点の座標は次のように変化します。
    (1, 2/3, 0)
    (2, 2/3, 2/3)
    (3, 0, 2/3)
    (4, 0, 0)
    (5, 2/3, 0)
    (6, 2/3, 2/3)
    (7, 0, 2/3)
     この空間の外から見れば、あなたはぐるぐると回りながら旗を立てているのですが、あなたがそれを意識することはありません。しかし意識せずとも、一本旗を立てるたび、あなたはx軸方向に進んでいるのです。角張った螺旋を描きながら。

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      講演会

       美容室のような店に来ている。入口で、X氏の講演が急きょキャンセルになったことを知らされる。
       今日は代わりにA先生がおみえになりますが、参加されますか。
       頷くと、掃除中でコーヒーが淹れられなくて、ちょうどさっき淹れたのがお盆の上にあります、とのこと。お気遣いなくと断ったが、でも本当に誰も飲まないのでというのでいただくことにした。コーヒーは冷たくて酸っぱかった。仕事の話を少しだけした。
       時間がたつにつれひとが集まってきて、部屋は満員になった。隣に腰かけた女性に目をやると、あなた、ミナミ? と訊かれた。
       え?
       出身はミナミですか?
       その女性と以前会ったことがあるような気がした。たしか学生時代のバイト先の先輩の、そこまでは思い出せたが名前までは出てこなかった。記憶を探りながらじっと見ていると、やはり微妙に違うように感じられた。とびきり美人ではないが、微笑んだ顔が優しくてきれいなひとだ。
       あ、でも違うかも、いいとこのひとっぽいし、と彼女は言った。そうそう、と離れた席のT社長が唐突に会話に割りこんでくる。
       いやそんなことは。
       じゃあどこなの?
       今はキタですよ、隣の市の端っこです。
       昔は?
       実家はヒガシです。
       やっぱり。
       どうしてこのひとの「やっぱり」はこんなに美しく響くんだろう、と思った。どこかからだの奥のほうで双葉が開く感覚があった。
       彼女の笑みの向こうから、だって二年前って言ったらSちゃんが宗教にはまってた頃だから、とか、反対側から、アプリで呼んだタクシーに乗ったら明らかにタバコじゃない煙のにおいがして、とか言う声が聞こえる。場違いだっただろうか。A先生については名前くらいしか知らないというのに、勢いで参加するのは軽率ではなかったか。

       やがて、A先生がおみえになりました、という声が聞こえ、途端に部屋が静まり返った。どこにいらっしゃるのかと訝しんでいると、天井から部屋全体に影が落ちてきて、A先生が降りられたことが分かった。A先生は部屋にいる受講生の名前を一人ずつ呼びながら、細い管のようなものを伸ばして刺し貫いていく。Kさんは腕、T社長は首、Sちゃんは腹。
      「Eさん」
       隣に座る彼女の左目に管が突き刺さった。ああ、Eさんっていうんだ。
      「Yさん」

       どしゅっと音がした。気がして。額が割れた。割れて。めりめりと管が侵入する。じゅるじゅるわたしの中身が。吸い出されていく。
      「夕闇のなかで長く長くのびていく影、その頭部を誰かが赤いスニーカーで踏んでいた」。
       管に乗って。タンクのような腹部に取りこまれる。そこには皆が集められていて。
      「目の前にはどこまでも続く青い空、その下にそびえる赤茶けた山々、広い荒野をたった一本まっすぐに走る道」。
       わたしは、撹拌されていく。わたしは。まざりあってわたしたちになってしまう。
      「服を脱いで洗面台の前に立ち、左右でかたちの違う胸、傾いた腰骨、いびつに曲がる左肘をさする」。
       A先生は大きな口で。音も立てずに、わたしたちを飲み下す。講演が終わると満足げに三つの目を細め。わたしたちの脱け殻を見回し。ゆっくりと上昇する。

       会場を出るとわたしの脱け殻とEさんの脱け殻は、連れだってEさんの部屋に向かった。そして何を言うでもなく服を脱ぎ、わたしの脱け殻はEさんの脱け殻を抱いた。わたしの脱け殻はしきりに彼女の脱け殻の左目を舌で愛撫しようとし、彼女の脱け殻は執拗にわたしの脱け殻の額に口づけたが、お互いに決して満たされることはなかった。その様子をわたしたちはA先生の目から眺めていた。わたしはすでにEさんと繋がっていたし境界線がわからないほど混ざりあっていたので、二つの脱け殻が肌を擦り合わせくねくねと悶える様は滑稽でしかなかった。

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        筆跡

         ノートの筆跡が雨を呼んでいた。グラスに口をつけ、暗赤色のインクを啜る。柔らかくみずみずしい唇の端に滲んだ。頬の膨らみを鋭いハサミがじょきじょきと割いていく。傷口から溢れ出す筆記体、幾筋も流れ出す物語。
        「君は明日ここを発つ」。
        「彼女は降り注ぐノイズのなかで佇んでいる」。
        「水はきんと冷え透きとおっていて、顔を洗うとすっかり目が覚めた」。
        「列車の窓を伝う雨が、曇りも汚れもすべて洗い流した。やがて雲が口を開け、クリーム色の光が地面を優しく撫でた」。
         かすれて消えかけた文字の続きを、赤い花が彩りやがて腐り、赤い枯れ葉が積もりやがて砕け、爪の剥がれた指が辿っていく。筆跡は水晶の丘を越え、氷の輪を一周してもなお、ひたすらに螺旋階段を上り続ける。
        「振り向くと窓が空いていて、ひんやりした風がカーテンを揺らしていた。僕は窓辺に立って外を眺める。冬に褪せた草原が広がり、葉の落ちた木々が目を閉じて日ざしを浴びている」。
        「赤い傘で顔を隠して、」
        「朝露に濡れた緑の陰で、ひとり座って待っていた。何年も、何年も」。
        「ホームに降りると、なぜかこの街で最後だという予感がした」。
        「やっと見つけたよ、こんなところに隠れていたんだね」。
         君が生まれ、言葉を発し、成長し、出会い、別れ、消えるまでの合間。一滴の雫が、水面を波打たせ、蒸発し、雲となり、再び降り注ぐまでの、気の遠くなるような時間。
         濡れた指が、赤い糸で傷口を縫合する。それは肉に溶けてあなたの一部になるけれど、わたしはもうあなたの一部ではない。ハサミは錆びてぼろぼろに朽ちてしまった。皺だらけの顔が微笑む。グラスに残った最後のひとくちを飲み干す。エンドマークもなくノートが閉じられる。どのページもびっしりと君の筆跡で埋め尽くされている。

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          IDまたはパスワードが違います

           あなたをなくしてしまったので、ログインすることができません。秘密の質問をしてください。
          「今まででいちばん美しいと感じたものはなんですか?」
           あなたは十七歳で、いつも眠そうな顔をしている。たいてい机に突っ伏して居眠りしているか本を読んでいる。プリントの余白に自作のマンガのキャラを描いている。雨の降る日に渡り廊下のしたで俯いて立ち尽くしている。幻滅している。他人の自殺願望に気づいて驚いている。雨上がりの屋上で虹を探している。真夜中のプールサイドでぽかんと口を開けて星を見ている。通学に使うバスの最後尾で窓ガラスにほっぺたを押しつけている。伸ばしっぱなしの黒髪を世話焼きな同級生に結ばれるままにしている。スケッチブックに鉛筆を走らせて、柔らかい手を描いている。調理実習で鍋を焦げつかせてばつが悪そうにしている。ファミレスのサラダとドリンクバーで三時間くらい居座って紅茶を制覇している。夏の夕暮れ、白くはためくカーテンの後ろで窓から足を投げ出して腰かけている。そのまま呼吸する、隙間にするりと滑りこむ。
          「今まででいちばん美しいと感じたものはなんですか?」
           あなたをなくしてしまったのでログインすることができません。私は口を噤み、絡まった自分の指先を、長い時間かけてほどいています。夕焼けは赤く、カーテンはいつまでも白く、あなたの声はいつまでたっても聞こえません。

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            囁く十二色と翻訳された触感の差異を埋める

             時計の針を探していました。家の鍵をなくしてしまったので、皿の上でひとりダンスを踊っていたところ、明くる朝までとベッドの奥へ招かれたのでした。シーツの上に綿毛のような月光が転がっていました。しばらく待てば雨が降ります。聞いたことのない声を手に、指先を口に咥えます。翼を切った鳥に止まる枝などありません。柔らかい布に海が広がっていくのを、丘の上からぼんやりと眺めていました。雨はやみ、緑色が吹いています。湧き出した泉を、掌から細い両腕を伸ばして掬います。おいしいにおい。もいだ林檎。温かさ。潮は満ち、そして引きます。私はふたたび刺さる寒さのなかに放り出され、墜落するコウノトリの隙間を縫って、砂まみれになりながら踊ります。瞼を焼く日差しの合間に昨夜の安らぎを見出だします。時計の針を探しています。

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              ポット

               ポットのお湯を切らさないでくださいと彼女は言った。
               お湯ですか。
               ええ、お湯です。
               なぜですか?
               質問をしてはいけません。あなたに許されているのはポットのお湯を切らさないようにすることだけです。
               わかりました、と私は白いポットの蓋を開けて水を注ぎ始めた。一面の空白のなかで、とぷとぷと溜まる音だけが揺れている。

              *

               ポットのお湯について考えてください。そうしている間だけあなたはあなたたることができます。そして私もまた私たることができるのです。
               彼女はそう言ったが、そもそもここには彼女と私とポットと水しかない。私は水ではない。私はポットではない。私は彼女ではない。今日も私は水を注ぎ、ポットは湯気をたてている。

              *

               初めにポットあれ。彼女は宣言した。ポットが存在するからには中に溜める水が必要である。水を注ぐのは人の手である。そうしてあなたが生まれた。そう彼女は述懐した。
               どうして貴女が注がなかったんだろう。
               それは質問ですか? いいえ、単なる呟きです。
               どうして私が注がなければならないのかしら。
               それは回答だろうか。いいえ、単なる独り言です。
               さて、彼女はどこから来たのだろうか。

              *

               真白な空間にぽつんとポットありけり。野山もなければ竹もなし、万のものがなかりけり。
               ポットから湯気が立ち上る、湯気の進む方を上と規定する。さすれば自ずとポットの底は下となる。ポットの注ぎ口を前とすれば、反対側が後ろとなる。
               かくして世界は我が眼前に小ぢんまりと屹立し、私は座標(1,0,0)に立ってネガティブ方向にポットと対峙するのであった。

              *

               熱とはエネルギーの残滓であり、つまりポットでお湯が沸くならばそれ即ちエネルギーを消費しているに他ならない。
               当たり前じゃないですか、と彼女はつまらなさそうな眼差しを寄越す。
               何のエネルギーがどこから供給されているのだろう。
               彼女はぴっとひとさしゆびを立てた。見上げれば虚空に数字が6桁、音もなくカウントアップしている。
               それからその数値を記憶することが私の日課になった。今日は、3142656.

              *

               私はポットに水を注いだ。水は蛇口を捻れば出てくる。蛇口とは口の部分であって、それでは捻る部分は何と言うのだろう。
               知りません。
               蛇口があるなら水を引く水道管もある。水道管は遥か彼方から伸びている。どこに繋がっているのだろう。
               さあ……。水道管が見えなくなるところが地平です。
               あの向こうに彼女ですら知らない水源があるのだろうか。

              *

               宙空の数値がカウントアップしない。
               ポットに水を注いだがお湯が沸かない。
               蛇口を捻ったが水が出ない。
               ポットを調べようとしたが動けない。
               私に話しかけても返事がない。
               そうなったらどうします?
               少し考えてみたがうまくいかなかった。なぜなら今日もいつも通り蛇口を捻れば水は出るし、ポットに注いでお湯を沸かすし、虚空の数値はカウントアップするし、彼女と私は独り言をすれ違わせるからだ。
               そう言うと彼女はいつものつまらなさそうな表情を浮かべた。
               そんな76584185の日。

              *



              *

               ポットのお湯を切らさないでくださいと彼女は言った。
               お湯ですか。
               ええ、お湯です。
               なぜですか?
               質問をしてはいけません。あなたに許されているのはポットのお湯を切らさないようにすることだけです。
               わかりました、と言って私は長いことポットに水を継ぎ足し続けている。
               虚空の数値は9223372036854775807で止まってしまった。
               彼女はもういない。彼女は本当にいたのだろうか、と声に出すも、独り言は返らない。

              *

               ポットのお湯について考えてください。そうしている間だけあなたはあなたたることができます。そして私もまた私たることができるのです。
               そう彼女が言ったかどうか定かではない。二つの指標を失った私の記憶は空白に塗り潰されつつある。ここには私とポットと水しかない。もはや最後の指標すら疑わしかった。お湯について考えていようが、彼女は彼女たることができなかったのだから。
               それでも私は今日も水を注ぎ、ポットは湯気をたてている。他に方法を知らなかった。

              *

               水が止まった。
               錆びた蛇口を捻っても何も出てこなかった。水道管もすっかり錆びているので、地平線のあたりで漏水しているのかもしれない。
               私は膝をつき、かさかさに乾いた手でポットに触れた。持ち上げると世界の裏側に「終了しますか?」というメッセージを見つけた。ここはとうの昔に忘れられていたのだ。いいえ。かすれた声で呟いてポットをもとの位置に戻す。
               私はひとさしゆびでゆっくりと注ぐボタンを押した。湯気と共に、ピンクと赤と黒の混じったどろりとした肉の塊が落ちる。ぼたぼた、どぼどぼ、勢いを増して、指を上げても止まらない。吹き出した肉に飲みこまれ、私もまたその一部と化し、思念だけが座標上に立ち上がった。
               探しに行こうか。
               (1,1,3)に浮遊しながら思う。広がる肉の上で輪郭を走査する。ポットを中心としてなだらかに傾斜した丘の縁を、水道管がぐるりと取り囲んでいた。それが地平線だった。
               肉塊はとめどなく溢れ続けた。やがて空白は埋め尽くされ、果てから反湯気方向へと流れ落ちた。瀑布は白い世界を肉色に浮かび上がらせる。ボタンがあり、蓋の開閉軸があり、注ぎ口がある。それは巨大なポットの形をしている。
               1……2……。
               私は虚空に値を浮かべて数え始める。
               15……16……。
               初めにポットあれ、と誰かが言った。
               127……128……。
               ポットが存在するからには中に溜める水が必要ね。
               255……256……。
               どうして私が注がなければならないのかしら。
               1023……1024……。
               やがて巨大な手がポットの蓋を開き、
               肉塊はポットの中へと吸い込まれた。

              * SPACE ID:418755 go to next POT...? (Y/N)

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                首ちゃん

                 飲み会から帰ってくると首ちゃんが座布団に転がって映画を観ていた。ただいま、と声をかけても返答がない。どうやら映画に夢中らしい。画面にはヒロインの首を抱えて走るイケメン俳優の姿が。「はやく私の体を」「だめだ間に合わない!」という字幕のあと、爆発。ええと、何て映画?
                 目を覚ます。二日酔いで頭が痛い。脱衣室から音がして、見に行ってみてら首ちゃんが私のシャツに食べられてもぞもぞと動いていた。持ち上げてシャツから出す。
                「何してるの」
                「洗濯……しようと思って」
                 あは、とごまかすみたいに笑う。私はどう言えばいいかわからなくて意味のない「うん」を発した後、洗濯機にシャツを放りこんだ。顔を洗う。
                 キッチンへ向かう。首ちゃんがてけてけ後ろからついてきて、恐る恐る「怒った?」ときく。
                「怒ってないよ」
                「むすっとしてる」
                「寝起きですから」
                 パンを焼いてコーヒ一をいれる。首ちゃんはテーブルの上でスプンを口にくわえ、器用にジャムを塗っている。いただきます。卜一ス卜にかぶりついて本当に幸せそうな笑みを浮かべる。かわいい。

                *

                 雨がハイハットを叩いている。途切れ途切れのピアノの川で、色とりどりの電子音の球体が弾む。昨夜の喫茶店で切り取ってきた君の首は、音楽に耳をすましているのか、皿の上で目を伏せて微笑んでいる。
                 私はいただきますと言ってから、左のフォークを眉毛の上あたりにそっと刺し、右のナイフで顔を斜めに切り取る。添えられたバニラアイスとベリーのソースをつけて食べる。君は黙っている。私も黙々と君を食べていく。
                 音の粒が部屋を満たし、私のおなかが君で満たされると、私は君の声でごちそうさまと言う。それからひとりで、昨日の話の続きを始める。

                *

                 無意識に口から「にゃあ」が出た。三連休の最終日、のどかな朝である。私はカーテンを閉めた部屋で寝間着姿のまま腐っていた。日光が遮光カーテンの下からもぐりこんできてしつこい。まぶしい。
                「にゃあ三十一歳」と呟いてみる。悲壮感が増した。今の私にはもっと和やかな、微笑ましいにゃあが必要だった。お客様の中に、もっと愛らしいにゃあはいませんか! うーん……にゃあ専用ザク……? 赤い。「決定的差ではないことを教えてやるにゃ!」って言う。意外に強い。でもガンダムがビーム猫じゃらしを持ってるとそれに夢中になって負ける。
                 ふふっ、とかわいた笑いが漏れてさらに悲壮感が増した。にゃあ三十一歳はのっそりと体を起こし、トイレに向かう。洗面所で顔を洗う。朝食はフレンチトーストにしよう。卵を割ってかき混ぜていると、窓の外、塀の上でのびをしていた黒いにゃあと目があった。戸惑いとほんの少しの警戒を混ぜた無関心な眼差し。黄色いその瞳を見つめていたら、ぷいとそっぽを向かれてしまった。理由もなく、なんとなくいい一日になりそうな予感がした。

                *

                 右手の爪の下から小さくて艶かしい白い腕が何本も生え、絡み合いながらひとつの太い腕を形作り、アスファルトの上にべたんと手をつくと、表記しづらい音で鳴いた。私は左手でグリーンDAKARAについていた妖怪ウォッチのシールを剥ぎ取り、ペットボトルの蓋をひねって中身を喉に流しこんだ。
                 まばたきをすると人々はウィルスに感染した。急に不安に襲われて、腕や足がもげ、溶けて白いどろどろしたものになってしまう。今日のテストは簡単で、問1の答えは「懸想」だった。足の付け根に舌が這うような感覚。君はもう君たちに成り下がった。飛行機が白濁した街を照らしながら堕ちてくる。
                 苦しいので髪を切った、猫がいってしまった晩に。首を傾けると耳の中から舌が垂れてくるので、ぱっと眼を開くあなたはとても美しい。においに触れてしまえば爪先はひとりでに柔い色を探し、肩の窓は開きっぱなしにも関わらず、誰の心臓もまざらなくて、瞬間は、涙と赤子を除くすべてになっていく。

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                * ついったより。修正、加筆。
                2014年11月24日頃から下書きに放置されていたもの。
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                  初夢

                  * 1/2
                   学校が全寮制だった。クラスメートと共に寮を案内される。寝室を覗き込むとそこは十二畳くらいの畳張りで、男子二十人程度が下着姿で雑魚寝していた。足の裏をくっつけて眠るしきたりとのことで、思春期真っ盛りのむさ苦しい男子たちがくっついた足を中心に放射状に並び、また足の裏をくっつけるか否かでお互いの距離感を測り合う様には怖気が走った。
                   とにかく一人になりたかった。背後から友人が呼ぶのを無視して中庭の脇を抜け、北校舎に向かう。一階のトイレに駆け込んで個室に入ろうとするがそこには剥き出しの洋式便器が鎮座しているばかりだ。私が腰かけると上から格子状の金具が頭部に被さった。ジェットコースターの安全バーを思い浮かべ、それから拷問器具を連想した。これではいたぶって下さいと言わんばかりではないか。後から友人がトイレに入ってきて私の前に立った。数年前に死んでしまった彼は、困ったような笑みを浮かべて「隠れてないだろそれ」と言った。そうだね、と私も笑みを返した。

                  *1/3
                   追われていた。追ってくるのは一人の転校生かもしれなかったし、生徒や教師全員だったかもしれなかった。それにしては校内は廃墟のように静かで、僕が息を吐き出して走る音だけが虚しく響いていた。前方には誰もいない、ただ追われている感覚だけが強くあった。両手を強く握り締め、廊下を走り抜け、階段を駆け上がり、大きなプラネタリウムの重い扉を開ける。プラネタリウムの天井はぱっくり割れていて、そこから紫色の空が見渡せた。もうすぐ夜が明ける。
                   プラネタリウムの真ん中には投影機はなくて、円形の台座に瓦礫が転がっている。そこにいるかが二頭、尾びれで器用に立っていた。きゅ、と鳴く声に応じるように、僕は握っていた手を開いた。両の掌から一つずつ、橙色に光る羽がふわりと浮かんでいるかたちに近づいていった。いるかと羽は互い違いに並ぶとくるくると踊った。天井の割れ目から光が射し込む。いるかは白く発光し、羽は橙色の輝きを強くした。四つの光が回りながら浮かび上がり、螺旋を描いてプラネタリウムから空高く飛んでいった。
                   頭の中でずっと同じ曲がかかっていた。大きな音を立ててドアが開き、学生服を着た小柄な人影が姿を現した。男か女かわからないその追っ手は僕を殺しに来たのだろう。けれども全く死ぬ気がしなかった。僕は鼻唄を歌いながら、襲い来る人影を迎え撃つ。

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                    雨の夜の散歩

                     雨が降っている夜に散歩していると、通りの向こうから一人、歩いてくるひとがいる。ぶかぶかの服を着たそのひとは、傘も差さず、長い髪を振り乱しながら何かをむしゃむしゃ食べている。近づくにつれ、どうもそれは私の子どもの頭ではないかと思われた。
                     私に目もくれずすれ違っていこうとするそのひとに、すみません、と声をかける。ぱっと勢いよく剥いた眼は、まるで夏空のような色をしていた。通り沿いの家の屋根で大粒の雨が弾ける、ぼつぼつ、ぼつぼつ、という音が、私とそのひとの間を埋めていった。私はようやく、そのひとが女であることに気づいた。
                     あなたが持っているの、私の子どもじゃないかと思うのですが。
                     そのひとは何食わぬ顔をしていたが、ほんの一瞬、わずかに眉間に皺を寄せた。それから憐れむような蔑むような冷たい視線をよこした。何かしらそんなわけないじゃない気持ち悪いこと言わないでよ、ああこのひときっと頭がおかしいのねだからそんなことを言ってるんだ。
                    「違いますよ。これはハンバーガーです」
                     口もとをべっとり血で濡らして、そのひとは微笑んだ。そうですか、失礼しました、ところで郵便局はどちらでしょうと尋ねると、まっすぐ行って二つ目の角を右だという。子どもの虚ろな瞳と目が合ったが、私は礼を言ってその場をあとにした。くちゃくちゃと何かを咀嚼する音が、しばらくのあいだ背後から追いかけてきた。

                     雨が降りやまぬ夜に散歩していると、通りの向こうからたった一匹、歩いてくるものがある。犬だった。ところどころ毛の抜けたその犬は、傘も差さず、前足を小刻みに動かして、何かをいじっている。近づくにつれ、どうもそれは私の子どもの足ではないかと思われた。
                     私がそこにいないかのように通りすぎようとする犬に向かって、すみません、と声をかける。ぱっと勢いよく開いた口の内側は、草が青々と繁っていた。水溜まりで大粒の雨が弾ける、びちゃびちゃ、びちゃびちゃ、という音が、私と犬とを濡らしていった。私はようやく、その犬が靴を履いていることに気づいた。
                     あなたが持っているの、私の子どもじゃないかと思うのですが。
                     犬はきょとんとした顔で緑色の舌を出していた。その表情は半分笑っているようで、なぜかとても癇に障った。私が言ったことは、ほんの一単語も理解されていないのだと思った。しかし犬は答えた。
                    「違いますよ。これは僕のスマホです」
                     傷だらけで泥にまみれた、小さな小さな足を左右に転がしながら、犬は半笑いで言った。そうですか、すみませんでした、ところで郵便局はどちらでしょうと尋ねると、まっすぐ行って三つ目の信号を左だという。私は礼を言ってその場をあとにした。しばらくの間、ひたひたという裸足の足音が、横に並んで歩いているようだった。

                     東から明け始めた夜の下で雨はまだ降り続いていた。私は散歩をしているのか、どこかへ向かって進んでいるのか、ただ足を動かしているのかわからなくなり、わかりたくもなかった。真っ暗闇のなか、延々と続く道の向こうから、何かが滑るように移動してくる。白くぼんやりと発光する何かはひとの形をしていて、細い棒のような両の腕に布にくるまれた塊を抱えている。近づくにつれ、どうもそれは私の子どもの胴体ではないかと思われた。
                     何かは私の目の前で停止した。大粒の雨が降りしきっているはずなのに、ひとつの音も聞こえなかった。すみません、と私は声をかけた。
                     あなたが持っているの、私の子どもじゃないかと思うのですが。
                     何かはゆっくり頷くと、布の塊を差し出した。私はおそるおそるそれを受け取り、布のなかを覗き込んだ。小さすぎるトルソが露になり、引きちぎられた断面から血が滲んでいた。私はその場にくずおれ、声の限り泣いた。もう戻れないのだと思った。

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                      猫を埋める 触手 夢

                      『猫を埋める』

                       丑三つ時にかりりかりりと窓ガラスが泣くので、ベッドから起き上がってカーテンを開けると、そこにいたのは猫の姿をした祖父でした。
                       祖父は一言「入れてくれ。」と鳴きました。
                       私は首を横に振ったあと、ひどく悲しい気持ちになりました。おじいちゃんは猫ではないし、もう生きてはいないよ。それでも祖父は「入れてくれ。」と言って、干からびて骨と皮だけになってしまった前足で、かりりかりりとやるのです。私は仕方なくガラス戸を開け、左手のマイナスドライバで祖父である猫を滅多刺しにしました。
                       今夜も闇夜に断末魔が響き渡ります。庭にまたひとつ盛り土が増えます。マイナスドライバも埋めねばなりません。一晩目は包丁でした。カッター、鋏、金槌、ペンチ。もう武器がありません。
                       明晩、私はこの両手で祖父を殺さなければなりません。そしてその手で自分を埋めねばならないのです。ですが少なくとも今夜は眠れます。
                       おやすみなさい。おやすみなさい、おじいちゃん。


                      『触手の生活』

                       触手が洗濯物を干している。

                       触手がエプロン姿で台所に立って何かを切っている。

                       触手が多めに作った煮物をタッパに詰めて冷蔵庫にしまっている。

                       触手が部屋の掃除の一環で本棚を整理しようとして久しぶりに開いた本に夢中になっている。

                      *

                       触手はバスルームの戸をがらりと開いた。こもった熱気に先端を上気させながら浴槽の蓋を開ける。湯気に覆われるピンク色の触手。ハンドルを回してシャワーを出し、温度が上がるまで待ってから、全身を流す。ボディウォッシュをスポンジにかけ、細かな泡ができるまで泡立てると、優しく包み込むように体を洗い始める。
                       洗いながら触手はシャンプーやコンディショナーについて考える。気になって一度使ってみたことがあるが、肌に合わなかったのでやめてしまった。知り合いの魔法使いに「いや、必要ないよね」と言われて深く傷ついたことも、やめた理由のひとつだった。
                       全身がすっかり体が泡に包まれると、シャワーで丹念に洗い流す。敏感肌なので、少しでもボディウォッシュが残っていると痒くなってしまうのだ。浴槽の湯温を確かめて、するりと滑りこむように湯に浸かる。触手はこの瞬間が一日の中で一番好きだ。感覚器を意味もなく斜め上に向けて、脱力する。
                       以前、知り合いの魔法使いと一緒に温泉に入ったとき、彼女が口ずさんでいた歌を思い出しながら、体を左右に揺らしたりする。ちゃぷちゃぷと湯が波打つ。あのときは泉質が合わなくて、あとで体が紫色になって大変だったっけ。今となってはいい思い出だ。あのひとは元気にしているだろうか。
                       浴槽から這い出し、もう一度シャワーを浴びて、お風呂から出る。タオルで軽く体を拭くと、早くも新しい粘液が分泌され、表面を覆い始めた。艶やかなピンク色をした触手は、床をぬめらせながら、ちょっとご機嫌な様子で寝室へと向かうのだった。

                      * 発端


                      『崩壊、水槽』

                       天井からパラパラくずが降ってきて、「なんか揺れた?」と弟に尋ねると同時に、家の壁がマンガみたいに倒れてきて、折り畳まれるように生き埋めになった。体がまったく動かなくて、弟の名前を何度も呼んだ。瓦礫が取り去られる感覚があり、目を覚ますとそこは赤い壁に光の線が流れる近未来的な建物内だった。私はセキュリティのビームをかいくぐって先を目指す。これはゲームだ、なんでゲームをやってるんだという声が頭の中で響く。

                      *

                       隣りに、昔近所に住んでいた友人がいた。私たちは中学生くらいで、学校の行事か何かで妙な建物に来ていた。そこは入り口が二つあり、どちらも入ってすぐに登り階段になっている。階段は建物の中央の踊り場で繋がって上階へ続いており、デパートなんかでよくある形だと思った。
                       妙なのは一階部分に大小様々な水槽が並んでいることだった。二つある入り口も半分ほど埋まっており、邪魔だなあ、なんでこんなにあるんだろうと思いながら私たちは外に出る。水槽の奥からパソコンのキーボードを叩く音がひっきりなしに聞こえていた。
                       上階で催されていた行事が、何か興味深い内容だったような気がするのだが、残念ながら思い出すことができない。

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                      * ついったより。修正・加筆。
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