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    春を思う

     大寒波の底で春を思っている。騒がしさが苦手だ。閉めきった部屋のなかで芽吹く観葉植物くらいでちょうどいい。百も乱れなくていい。ほっと灯ったランプの明かりくらいの暖かさで充分だった。
     気難しい少年相手に約束ごとが増えていく。捲し立てるように話さない。相槌を打つ。一度黙ってしまったら、向こうが口を開くまで待つ。視線をそらさない。
     外では雪が散っている。窓から空を見ると、そのまま白く吸いこまれていきそうだ。雪は奪う。温度も、音も、魂も。少年は服を三枚重ね着した上にコートのファスナーをきっちりとしめ、靴下も二枚重ねで履いていた。うさぎの耳のついたふわふわの帽子をかぶって、私の貸したマフラーで首の回りをぐるぐる巻きにしている。この部屋には暖房がない。
     真夜中、ベッドのなかで縮こまっていると窓の外に列車が到着した。少年は眠たい目を擦りながら乗りこんだ。窓から窓へ。お互いに一言もなかった。列車が動きだし、彼の顔はすぐに見えなくなった。雪が吹きこむのにも構わず、窓を開けたまま列車が小さくなっていくのを見送る。白い空に吸いこまれていくのを。
     翌朝目を覚ますと、長らく黙っていた鉢植えが言葉を発した。最初は黙って聞く。相槌を打ち、わずかな土から顔を出した芽をまっすぐ見る。窓の外の雪はきっと止んでいるが、この部屋には春は来ないだろう。私は、少年が残していったマフラーを植木鉢にぐるぐると巻いた。

    JUGEMテーマ:小説/詩



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      | 一話完結 | comments(0) |

      かんむり座

      「かんむり座」
      「なに?」
      「春の星座」と彼女は歌うように言った。
      「むかしむかしクレタ島という島にミノタウロスという怪物がいました」
      「牛の人だね」
      「うしのひと」
      「それで?」
      「それを勇者が退治しました」
      「鉄砲で撃ったの?」
      「煮て焼いて食ったかも」
      「ずいぶん野蛮な勇者」
      「その国の王女が勇者に恋をしました」
      「怪物を食うのに?」
      「しかし結局二人は離ればなれになってしまいます」
      「目が覚めたんだ。本当の怪物は勇者、あなただったの」
      「王女はひどく悲しみました」
      「なぜ私は怪物を好きになってしまったのかしら」
      「その様子を見ていた酒の神様が、王女を元気づけようと、美しいかんむりを送りました。そして王女を自分の妃に迎えたのです」
      「え、唐突?」
       それがかんむり座の神話、と彼女は締めくくった。なんかもやっとするね、と私は言った。煮て焼いて食う脚色はさておき、王女はかんむりをもらって酒の神のことを好きになったのだろうか。
      「それで」と彼女が視線を落とす。「ここにあるのが、そのかんむり」
       それはテーブルの上に無造作に置かれていた。古いものであることはわかる。持ってみると予想していたより重たい。黒ずんだ肌はかつて滑らかな金だったのかもしれないし、真ん中にはまっている大きな宝石ももっと澄んでいたのかもしれない。
      「どうするの?」
       尋ねると、彼女は少し恥ずかしそうに頭を下げた。その仕草にどきりとしつつも、私はかんむりを掲げ、恐る恐る、まとめられた髪を包むようにのせる。顔をあげた彼女ははにかむように笑みを浮かべていた。曇っていたはずの宝石がきらりと光り、両肩を露にしたシンプルなドレスにとてもよく合っていた。
       背筋を伸ばして椅子に腰かけた彼女は、さっきまで他愛ないおしゃべりをしていた姉とは別人なんだと思った。窓の外では温かい雨が音もなく降り注いでいる。もうすぐ春が来る。

      * ついったより 修正・加筆

      JUGEMテーマ:小説/詩



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        | 一話完結 | comments(0) |

        ポット

         ポットのお湯を切らさないでくださいと彼女は言った。
         お湯ですか。
         ええ、お湯です。
         なぜですか?
         質問をしてはいけません。あなたに許されているのはポットのお湯を切らさないようにすることだけです。
         わかりました、と私は白いポットの蓋を開けて水を注ぎ始めた。一面の空白のなかで、とぷとぷと溜まる音だけが揺れている。

        *

         ポットのお湯について考えてください。そうしている間だけあなたはあなたたることができます。そして私もまた私たることができるのです。
         彼女はそう言ったが、そもそもここには彼女と私とポットと水しかない。私は水ではない。私はポットではない。私は彼女ではない。今日も私は水を注ぎ、ポットは湯気をたてている。

        *

         初めにポットあれ。彼女は宣言した。ポットが存在するからには中に溜める水が必要である。水を注ぐのは人の手である。そうしてあなたが生まれた。そう彼女は述懐した。
         どうして貴女が注がなかったんだろう。
         それは質問ですか? いいえ、単なる呟きです。
         どうして私が注がなければならないのかしら。
         それは回答だろうか。いいえ、単なる独り言です。
         さて、彼女はどこから来たのだろうか。

        *

         真白な空間にぽつんとポットありけり。野山もなければ竹もなし、万のものがなかりけり。
         ポットから湯気が立ち上る、湯気の進む方を上と規定する。さすれば自ずとポットの底は下となる。ポットの注ぎ口を前とすれば、反対側が後ろとなる。
         かくして世界は我が眼前に小ぢんまりと屹立し、私は座標(1,0,0)に立ってネガティブ方向にポットと対峙するのであった。

        *

         熱とはエネルギーの残滓であり、つまりポットでお湯が沸くならばそれ即ちエネルギーを消費しているに他ならない。
         当たり前じゃないですか、と彼女はつまらなさそうな眼差しを寄越す。
         何のエネルギーがどこから供給されているのだろう。
         彼女はぴっとひとさしゆびを立てた。見上げれば虚空に数字が6桁、音もなくカウントアップしている。
         それからその数値を記憶することが私の日課になった。今日は、3142656.

        *

         私はポットに水を注いだ。水は蛇口を捻れば出てくる。蛇口とは口の部分であって、それでは捻る部分は何と言うのだろう。
         知りません。
         蛇口があるなら水を引く水道管もある。水道管は遥か彼方から伸びている。どこに繋がっているのだろう。
         さあ……。水道管が見えなくなるところが地平です。
         あの向こうに彼女ですら知らない水源があるのだろうか。

        *

         宙空の数値がカウントアップしない。
         ポットに水を注いだがお湯が沸かない。
         蛇口を捻ったが水が出ない。
         ポットを調べようとしたが動けない。
         私に話しかけても返事がない。
         そうなったらどうします?
         少し考えてみたがうまくいかなかった。なぜなら今日もいつも通り蛇口を捻れば水は出るし、ポットに注いでお湯を沸かすし、虚空の数値はカウントアップするし、彼女と私は独り言をすれ違わせるからだ。
         そう言うと彼女はいつものつまらなさそうな表情を浮かべた。
         そんな76584185の日。

        *



        *

         ポットのお湯を切らさないでくださいと彼女は言った。
         お湯ですか。
         ええ、お湯です。
         なぜですか?
         質問をしてはいけません。あなたに許されているのはポットのお湯を切らさないようにすることだけです。
         わかりました、と言って私は長いことポットに水を継ぎ足し続けている。
         虚空の数値は9223372036854775807で止まってしまった。
         彼女はもういない。彼女は本当にいたのだろうか、と声に出すも、独り言は返らない。

        *

         ポットのお湯について考えてください。そうしている間だけあなたはあなたたることができます。そして私もまた私たることができるのです。
         そう彼女が言ったかどうか定かではない。二つの指標を失った私の記憶は空白に塗り潰されつつある。ここには私とポットと水しかない。もはや最後の指標すら疑わしかった。お湯について考えていようが、彼女は彼女たることができなかったのだから。
         それでも私は今日も水を注ぎ、ポットは湯気をたてている。他に方法を知らなかった。

        *

         水が止まった。
         錆びた蛇口を捻っても何も出てこなかった。水道管もすっかり錆びているので、地平線のあたりで漏水しているのかもしれない。
         私は膝をつき、かさかさに乾いた手でポットに触れた。持ち上げると世界の裏側に「終了しますか?」というメッセージを見つけた。ここはとうの昔に忘れられていたのだ。いいえ。かすれた声で呟いてポットをもとの位置に戻す。
         私はひとさしゆびでゆっくりと注ぐボタンを押した。湯気と共に、ピンクと赤と黒の混じったどろりとした肉の塊が落ちる。ぼたぼた、どぼどぼ、勢いを増して、指を上げても止まらない。吹き出した肉に飲みこまれ、私もまたその一部と化し、思念だけが座標上に立ち上がった。
         探しに行こうか。
         (1,1,3)に浮遊しながら思う。広がる肉の上で輪郭を走査する。ポットを中心としてなだらかに傾斜した丘の縁を、水道管がぐるりと取り囲んでいた。それが地平線だった。
         肉塊はとめどなく溢れ続けた。やがて空白は埋め尽くされ、果てから反湯気方向へと流れ落ちた。瀑布は白い世界を肉色に浮かび上がらせる。ボタンがあり、蓋の開閉軸があり、注ぎ口がある。それは巨大なポットの形をしている。
         1……2……。
         私は虚空に値を浮かべて数え始める。
         15……16……。
         初めにポットあれ、と誰かが言った。
         127……128……。
         ポットが存在するからには中に溜める水が必要ね。
         255……256……。
         どうして私が注がなければならないのかしら。
         1023……1024……。
         やがて巨大な手がポットの蓋を開き、
         肉塊はポットの中へと吸い込まれた。

        * SPACE ID:418755 go to next POT...? (Y/N)

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          | よくわからないもの | comments(0) |

          首ちゃん

           飲み会から帰ってくると首ちゃんが座布団に転がって映画を観ていた。ただいま、と声をかけても返答がない。どうやら映画に夢中らしい。画面にはヒロインの首を抱えて走るイケメン俳優の姿が。「はやく私の体を」「だめだ間に合わない!」という字幕のあと、爆発。ええと、何て映画?
           目を覚ます。二日酔いで頭が痛い。脱衣室から音がして、見に行ってみてら首ちゃんが私のシャツに食べられてもぞもぞと動いていた。持ち上げてシャツから出す。
          「何してるの」
          「洗濯……しようと思って」
           あは、とごまかすみたいに笑う。私はどう言えばいいかわからなくて意味のない「うん」を発した後、洗濯機にシャツを放りこんだ。顔を洗う。
           キッチンへ向かう。首ちゃんがてけてけ後ろからついてきて、恐る恐る「怒った?」ときく。
          「怒ってないよ」
          「むすっとしてる」
          「寝起きですから」
           パンを焼いてコーヒ一をいれる。首ちゃんはテーブルの上でスプンを口にくわえ、器用にジャムを塗っている。いただきます。卜一ス卜にかぶりついて本当に幸せそうな笑みを浮かべる。かわいい。

          *

           雨がハイハットを叩いている。途切れ途切れのピアノの川で、色とりどりの電子音の球体が弾む。昨夜の喫茶店で切り取ってきた君の首は、音楽に耳をすましているのか、皿の上で目を伏せて微笑んでいる。
           私はいただきますと言ってから、左のフォークを眉毛の上あたりにそっと刺し、右のナイフで顔を斜めに切り取る。添えられたバニラアイスとベリーのソースをつけて食べる。君は黙っている。私も黙々と君を食べていく。
           音の粒が部屋を満たし、私のおなかが君で満たされると、私は君の声でごちそうさまと言う。それからひとりで、昨日の話の続きを始める。

          *

           無意識に口から「にゃあ」が出た。三連休の最終日、のどかな朝である。私はカーテンを閉めた部屋で寝間着姿のまま腐っていた。日光が遮光カーテンの下からもぐりこんできてしつこい。まぶしい。
          「にゃあ三十一歳」と呟いてみる。悲壮感が増した。今の私にはもっと和やかな、微笑ましいにゃあが必要だった。お客様の中に、もっと愛らしいにゃあはいませんか! うーん……にゃあ専用ザク……? 赤い。「決定的差ではないことを教えてやるにゃ!」って言う。意外に強い。でもガンダムがビーム猫じゃらしを持ってるとそれに夢中になって負ける。
           ふふっ、とかわいた笑いが漏れてさらに悲壮感が増した。にゃあ三十一歳はのっそりと体を起こし、トイレに向かう。洗面所で顔を洗う。朝食はフレンチトーストにしよう。卵を割ってかき混ぜていると、窓の外、塀の上でのびをしていた黒いにゃあと目があった。戸惑いとほんの少しの警戒を混ぜた無関心な眼差し。黄色いその瞳を見つめていたら、ぷいとそっぽを向かれてしまった。理由もなく、なんとなくいい一日になりそうな予感がした。

          *

           右手の爪の下から小さくて艶かしい白い腕が何本も生え、絡み合いながらひとつの太い腕を形作り、アスファルトの上にべたんと手をつくと、表記しづらい音で鳴いた。私は左手でグリーンDAKARAについていた妖怪ウォッチのシールを剥ぎ取り、ペットボトルの蓋をひねって中身を喉に流しこんだ。
           まばたきをすると人々はウィルスに感染した。急に不安に襲われて、腕や足がもげ、溶けて白いどろどろしたものになってしまう。今日のテストは簡単で、問1の答えは「懸想」だった。足の付け根に舌が這うような感覚。君はもう君たちに成り下がった。飛行機が白濁した街を照らしながら堕ちてくる。
           苦しいので髪を切った、猫がいってしまった晩に。首を傾けると耳の中から舌が垂れてくるので、ぱっと眼を開くあなたはとても美しい。においに触れてしまえば爪先はひとりでに柔い色を探し、肩の窓は開きっぱなしにも関わらず、誰の心臓もまざらなくて、瞬間は、涙と赤子を除くすべてになっていく。

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          * ついったより。修正、加筆。
          2014年11月24日頃から下書きに放置されていたもの。
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            初夢

            * 1/2
             学校が全寮制だった。クラスメートと共に寮を案内される。寝室を覗き込むとそこは十二畳くらいの畳張りで、男子二十人程度が下着姿で雑魚寝していた。足の裏をくっつけて眠るしきたりとのことで、思春期真っ盛りのむさ苦しい男子たちがくっついた足を中心に放射状に並び、また足の裏をくっつけるか否かでお互いの距離感を測り合う様には怖気が走った。
             とにかく一人になりたかった。背後から友人が呼ぶのを無視して中庭の脇を抜け、北校舎に向かう。一階のトイレに駆け込んで個室に入ろうとするがそこには剥き出しの洋式便器が鎮座しているばかりだ。私が腰かけると上から格子状の金具が頭部に被さった。ジェットコースターの安全バーを思い浮かべ、それから拷問器具を連想した。これではいたぶって下さいと言わんばかりではないか。後から友人がトイレに入ってきて私の前に立った。数年前に死んでしまった彼は、困ったような笑みを浮かべて「隠れてないだろそれ」と言った。そうだね、と私も笑みを返した。

            *1/3
             追われていた。追ってくるのは一人の転校生かもしれなかったし、生徒や教師全員だったかもしれなかった。それにしては校内は廃墟のように静かで、僕が息を吐き出して走る音だけが虚しく響いていた。前方には誰もいない、ただ追われている感覚だけが強くあった。両手を強く握り締め、廊下を走り抜け、階段を駆け上がり、大きなプラネタリウムの重い扉を開ける。プラネタリウムの天井はぱっくり割れていて、そこから紫色の空が見渡せた。もうすぐ夜が明ける。
             プラネタリウムの真ん中には投影機はなくて、円形の台座に瓦礫が転がっている。そこにいるかが二頭、尾びれで器用に立っていた。きゅ、と鳴く声に応じるように、僕は握っていた手を開いた。両の掌から一つずつ、橙色に光る羽がふわりと浮かんでいるかたちに近づいていった。いるかと羽は互い違いに並ぶとくるくると踊った。天井の割れ目から光が射し込む。いるかは白く発光し、羽は橙色の輝きを強くした。四つの光が回りながら浮かび上がり、螺旋を描いてプラネタリウムから空高く飛んでいった。
             頭の中でずっと同じ曲がかかっていた。大きな音を立ててドアが開き、学生服を着た小柄な人影が姿を現した。男か女かわからないその追っ手は僕を殺しに来たのだろう。けれども全く死ぬ気がしなかった。僕は鼻唄を歌いながら、襲い来る人影を迎え撃つ。

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