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『BLAME! THE ANTHOLOGY』

評価:
九岡望,小川一水,野崎まど,酉島伝法,飛浩隆
早川書房
¥ 907
(2017-05-09)

 執筆陣確認して即購入決定でした。夢かと。

九岡望『はぐれ者のブルー』
 珪素生物かわいいその一。一冊楽しく読めたのも、この一作品目がうわー、すげー面白いって思わせてくれたのが大きい気がする。

小川一水『破綻円盤 -Disc Crash-』
 珪素生物かわいいその二。エロい、変態、いい意味で(いい意味で?)。『NOISE』まで組まれてる印象で読み応えがあった。
 閉塞感、懊悩、停滞している存在のもどかしさが前面に出ていて、ああ原作の爽快感は霧亥が決して止まらないから、超構造体もぶち抜いて進む力によるものだったんだなと改めて思った。

野崎まど『乱暴な安全装置 −涙の接続者支援箱−』
 決め台詞はテンション上がる。肉感あふれる異形の描写は、『BLAME』より『バイオメガ』っぽいなと思ったりもした。結末はちょっと投げやりな印象。著者のコメントには激しく同意します。

酉島伝法『堕天の塔』
 まさかのあのキャラにスポットを当ててくる著者のセンスのよさ。ミルフィーユみたく何層も挿し込まれるエピソードに酔う。境界が曖昧になっていく感覚がよかった。
 それにしても皆さん漬汁屋好きすぎじゃないですか。

飛浩隆『射線』
 飛先生の文章に触れるのは久しぶり。飛行機の前面に顔つけちゃうあたりとか、相変わらず変態だなー(称賛)と思った。例の二音、カタカナのルビにニヤリとする。一連のなかでは一番遠くまでふっとばしてもらいました。

読了日:20170609

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    森見登美彦『有頂天家族 二代目の帰朝』

     海星がかわいい。海星が、かわいい。
     以上です。
     そんな感じで、もう壊れたレコードプレイヤみたいに「海星が、かわいい」を繰り返していたいくらい海星がかわいいのですが、海星がかわいいばかり言ってると呆れられそうなのでちゃんと感想を書きます。海星がかわいい。くどい。

     有頂天家族は文学的アクもさほど強くなく、アクションあり恋愛ありのエンターテイメント色の強いシリーズ。小さな毛玉たちがころころ転がったり押しくらまんじゅうしたりするビジュアルが愛らしい。天狗たちの大業は迫力がある。そしてみんなどこか情けない。普段はいがみ合ったり悪態をつき合う間柄でも、たまに優しい一面が見えたりする、そういう関係性が温かくてよい。
     シリーズ二作目で一作目と大きく異なるのは、ところどころに見え隠れする冷たさだと思う。降りしきる雨や産業革命地獄、冠婚葬祭などの印象によるものだが、一番は幻術士の天満屋の持つ武器だろう。ないと全く話が変わってしまうし必然性はあるんだけど、なんていうか意外だった。あ、こういう小道具も使うんだ、みたいな。
     第二部のアニメは観てない。文庫のタイアップカバーになんか見慣れない怪盗キッドみたいなのがいるなァと思ったら新キャラだった。カッコいい風に描かれているのに全然格好よくない、煮え切らない、そこがよい。

     最後に、玉蘭もかわいいけどやっぱり海星がかわいいよ。ということで結論としては海星がかわいかったです。

    読了日:20170521

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      IDまたはパスワードが違います

       あなたをなくしてしまったので、ログインすることができません。秘密の質問をしてください。
      「今まででいちばん美しいと感じたものはなんですか?」
       あなたは十七歳で、いつも眠そうな顔をしている。たいてい机に突っ伏して居眠りしているか本を読んでいる。プリントの余白に自作のマンガのキャラを描いている。雨の降る日に渡り廊下のしたで俯いて立ち尽くしている。幻滅している。他人の自殺願望に気づいて驚いている。雨上がりの屋上で虹を探している。真夜中のプールサイドでぽかんと口を開けて星を見ている。通学に使うバスの最後尾で窓ガラスにほっぺたを押しつけている。伸ばしっぱなしの黒髪を世話焼きな同級生に結ばれるままにしている。スケッチブックに鉛筆を走らせて、柔らかい手を描いている。調理実習で鍋を焦げつかせてばつが悪そうにしている。ファミレスのサラダとドリンクバーで三時間くらい居座って紅茶を制覇している。夏の夕暮れ、白くはためくカーテンの後ろで窓から足を投げ出して腰かけている。そのまま呼吸する、隙間にするりと滑りこむ。
      「今まででいちばん美しいと感じたものはなんですか?」
       あなたをなくしてしまったのでログインすることができません。私は口を噤み、絡まった自分の指先を、長い時間かけてほどいています。夕焼けは赤く、カーテンはいつまでも白く、あなたの声はいつまでたっても聞こえません。

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        囁く十二色と翻訳された触感の差異を埋める

         時計の針を探していました。家の鍵をなくしてしまったので、皿の上でひとりダンスを踊っていたところ、明くる朝までとベッドの奥へ招かれたのでした。シーツの上に綿毛のような月光が転がっていました。しばらく待てば雨が降ります。聞いたことのない声を手に、指先を口に咥えます。翼を切った鳥に止まる枝などありません。柔らかい布に海が広がっていくのを、丘の上からぼんやりと眺めていました。雨はやみ、緑色が吹いています。湧き出した泉を、掌から細い両腕を伸ばして掬います。おいしいにおい。もいだ林檎。温かさ。潮は満ち、そして引きます。私はふたたび刺さる寒さのなかに放り出され、墜落するコウノトリの隙間を縫って、砂まみれになりながら踊ります。瞼を焼く日差しの合間に昨夜の安らぎを見出だします。時計の針を探しています。

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          リンク切れ

          「夢を見ていた」
          「違う」父が言う。「夢を見たという記憶を植えつけられた」
          「どう違うの」
           坂の上の廃墟から街を見渡す。薄青い靄が地面を這い、黄金色の朝焼けが傾いた塔の先端を温める。大通りは少しずつ照らし出され、その上にビルの影が長く伸びている。
          「箱を持っていた。とても綺麗な箱なんだ。青い石が渦巻き模様に埋めこまれていて」
           鳥たちが鳴いて、それで? と続きを促した。
          「箱を開けると中には、赤い宝石とか、金の星形とか、緑の骨とか、誰かの横顔が表紙に描かれた小さな本、消えたり現れたりを繰り返す布なんかが入っていた」
           どこかで犬が吠えて、それから? と続きを促した。
          「それから、穴みたいに黒い角砂糖がいくつか」
          「それはリンク切れだよ」と父が言う。
          「リンク?」
          「オブジェクトを引用していたんだろう。ネットワークが切断されて置き換えられたんだ」
           鳥は黙り、犬も黙り、私も口を閉じた。風の吹きすさぶ音だけがフィルタ越しに聞こえる。
          「かつて、ものを手元に集めて持っておく文化があった。美しいもの、貴重なもの、思い出深いものを」
          「持っておいてどうするの」
          「持っておくだけさ。たまに見返したりする。それらが自己を構成する要素だと信じていたのかもしれない」
          「自分じゃないのに?」
           廃墟から出る。大昔に飛び散ったままの硝子の破片を、シェル・スーツの分厚い靴底でざりざりと踏みしめる。
          「箱の持ち主はリンク切れになることを知っていたのかな」
          「もちろん。遅かれ早かれ、皆いつかなくなる。だから集めるという考え方もある」
          「そんな理由は嫌だな」
          「集めたいものがあるのかい?」
           東から明けていく空は視界に収まりきらないくらい広い。浮かぶ雲を捕まえることはできない。風は遠くまで速く走っていける。石はたくさんのことを知っている。
           私はかぶりを振る。ほしいものはひとつだけだ。ずっと前から決まっている。
           それは違う、と奥底から声が囁く。植えつけられた記憶。私も切れたリンクなのでは? 黒い角砂糖が積み重なって殻の内側を蝕んでいく。
           そうだとしても、何がどう違うのだろう。
           メットに朝陽の指が射しこみ、目を細める間もなく光量が調節された。ほの暗い予感にふたをして訊ねる。
          「父さんは何を集めていたの?」
           返事はない。あたりはすっかり明るく照らされ、見渡す限りのリンク切れが広がっている。私は見えない箱を抱え、黙って歩き始める。夢を見ている。

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          関連作品:『生痕化石』
          短編第175期 投稿 1000字
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