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    2023年まとめ

     最近感想とかぜんぜんブログに書いてないなと思って、かっとなって書いた。ぜんぜん小説読めてないなと思ったけど、自分で思ってたよりは読んでた。少ないけど。というわけで総括です。

    ■書いた
    ・1月 『記憶の懐胎』
      暴力と破滅の運び手さん主催 エッチな小説を読ませてもらいま賞 落選
    ・1月〜6月 『部屋 - Rooms』
      人格OverDriveにて連載(現在、一身上の都合により掲載停止)
    ・5月文フリ 『賛歌』
      谷脇栗太さん主催『鯨、コオロギ、人間以外』掲載
    ・7月 『姉の首』
      短編第250期 予選通過
    ・8〜11月 『プラネタリウム』『夜に・終電の忘れ物』『夜に・詩の感想』
      一夜文庫さん主催『読みたい夜に』寄稿
    ・11月 『鳩小屋騒動』
      藤井佯さん主催『鳩のおとむらい・鳩ほがらかアンソロジー』掲載

     なんというか、企画するひとの大変さとか、居場所の心理的安全性とか、もっと求められているものに応えられなければならない(いい意味で妥協点を探していく)みたいなところを切に感じた一年でした。来年もいろいろとチャレンジしていきたい。あといい加減、本作りたい。


    ■読んだ・小説編
    アーシュラ・K・ル・グィン『世界の誕生日』
     最高だった。文舵先生の容赦ない筆致で描かれる宇宙的性文化、その耽美と残酷さ。性は生に繋がるとか言われるけど本当に生きている人びとが描かれていて素晴らしい。同時に、ジェンダーについて現実の地球と逆の視点から描かれ問題を強く印象づけられる「セグリの事情」を始め、読むのに体力が必要な作品が多かった。
     特に好きなのは「求めぬ愛」「孤独」「古い音楽と女奴隷たち」「失われた楽園」。なかでも「失われた楽園」は、宇宙開拓船を舞台とした宇宙オペラなのだが、そこで起こるであろう諸問題の解像度が高すぎて眩暈がした。世代を経るにつれ旅本来の目的や意味が失われ新興宗教が立ち上がるあたりや、地球との文化・技術的断絶により話が通じなくなるなど。生きていける星に到着した人びとが「壁がなくて」吐いてしまう、怪我をしても放置し破傷風で死んでしまう痛ましさ、生まれ育った宇宙船に戻って旅を続けるという選択の納得感。その反面、本来の目的に添う形で新たな星に定住したシンとルイースのラストシーンは、祈りにも似てとても美しい。

    ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引書』
     ウィットに富んだ語り、鋭い観察眼。物語はどれも痛みを孕んでいて、孤独を見据え、真っ向から描く筆致に真摯さを感じる。波瀾万丈、という言葉がこんなに似合う小説もない。
     どれも好きなんだけど、一等好きなのは囚人たちが文集を作る「さあ土曜日だ」。もうこれは、読んでくれとしか言えない。読んでくれ。

    ポール・オースター『ガラスの街』
     小説家が間違い電話から私立探偵になり、ある人物を尾行する。しかし本当に相手は目的の人物なのか? 尾行は意味をなしているのか? 確かなことは何もわからない。
     地図の絵に見覚えがあるし、再読だと思っていたんだけれど、まったく物語の筋を覚えていなかったので初読かもしれない。とにかく手探りで、掴み所がなく、登場人物全員がのっぺらぼうだ。終盤の街の描写、何者でもなくなる展開、そして閉じこめられた部屋で出てくる料理にぞっとした。

    カート・ヴォネガット・ジュニア『猫のゆりかご』
     作家ジョーナによって語られるSF長編。キリスト今日からボコノン教という宗教に改宗するに至った顛末、ジョーナがいかにして世界の終わりに関わったかが書かれている。本を開いて目を引いたのは長すぎる目次。2〜4ページごとに見出しがついており、途中で「この単語何だっけ」と読み返したとき、ボコノン教の辞書的な役割を担っていることに気づいて愕然とした。小説世界における新しい視点を提供し、それを交えていくつものパワーワードを紡ぎだし、読み手をどうしようもなく世界の終わりに連れていく。
     1963年に書かれたこの物語内で、作者は第二次世界大戦の最後にヒロシマ、ナガサキに落とされ、その後の冷戦で各国がこぞって保有した核兵器について触れている。第三次世界大戦が勃発すれば核の打ち合いによってそれこそ世界の終わりが訪れる、という危機感がひしひしと感じられ、それは海を凍りつかせるSF的兵器「アイス・ナイン」に引き継がれている。ロシアウクライナからイスラエルパレスチナときな臭い情勢が続く昨今、本作を単なるフィクションとして読むことはできなかった。
     中盤以降、素晴らしいシーンが頻発するのだが、タイトル回収と、アンジェラ・ハニカーによるクラリネットの演奏シーンが特に好きだ。


    ■読んだ・マンガ編
    ますむらひろし『アタゴオル玉手箱』
     私のファンタジーの原点。キリエラ戦記までが特に好き。毎月一冊ずつ買って読み直すのは幸せだった。

    須藤真澄『アクアリウム』
     そのように世界ができている、と感じさせる作品は強い。透明度が高い。

    ・町田洋『砂の都』『日食ステレオサウンド』
     待ちわびていた作家の新刊と読み切り。最高なので読んでくれ。

    ・heisoku『春あかね高校定時制夜間部』『ご飯は私を裏切らない』
     このひとの描く闇、唐突に見せる描きこまれた表情が好きだ。春あかねの40歳よしえさんが大好きです。


    ■聴いた、奏でた・音楽編
    Merry Christmas Mr. Lawrence
    RYDEEN
     坂本龍一、高橋幸宏 両氏のご冥福をお祈りします。

    マイミーンズ『そういうことだったのか』
     大阪出張が増えてきていて、空き時間が発生することもあり「そういえば大阪のショップ限定で売ってたな……」と十年前のほしいものリストから思い出して購入した。もっと早く買っとけ。

    ・関係ないけど
     娘のピアノ教室のクリスマス発表会で、娘と一緒に連弾した。むちゃくちゃ緊張した&失敗した……。実績ができてしまったので次もとか言われそうで怖い。

     以上です。書きましたよ! これで息子(いない)は解放してくれるんでしょうね!?
     一年間ありがとうございました。2024年もよろしくお願いします。

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      ねじれ双角錐群『よだつ』



      〈毛〉ホラーアンソロジー。髪の毛ってホラー的モチーフとしてよく出てくる割に、ダイレクトに毛にフォーカスしたアンソロジーって見たことない気がする、ということで今回も絶妙なテーマですね。(ちなみにこの文章は、「毛 アンソロジー」でぐぐって体毛アンソロなるケモ系の薄い本に新たな性癖を目覚めさせられそうになりながら書いています。)そして毎度ながら表紙がかっこいい。
       以下ネタバレありです。

      01 「えいべさん オーディオコメンタリ版」 cydonianbanana
      「えいべさん」という映画に監督?がコメントをしていく形式で描かれたホラー。うわ、ちゃんとホラーだ! となった。これからホラーアンソロ始まりますよというトップに相応しい作品。映画のタイトル回収されたあと、サブリミナル毛で興がのってくる感じとか、「本物なんですよね」の「あ、やっちまったな」感とか、読んでてニヤニヤしてしまう。映画のオーディオコメンタリ版、という構成を生かした展開に作者さんらしさも垣間見つつ。

      02 「カルマ・アーマ」 小林貫
       ニキビを潰すのが好きな女に付きまとわれる話。終盤、生理的にきついのをこれでもかと食らわせてくるんだけど、そこに至るまでのずらし方がうまい。例えば日本酒のなかの氷とか(日本酒をロックにするな! 死人が出るぞ)、つまみの山盛りのポテサラとか。そういう微妙な違和感が居酒屋のシーンから始まっていて、これって伊津見くんが徐々にハックされていくのを表現してるのかなと。怪作。

      03 「取材と収穫」 笹幡みなみ
       ホラーアンソロの原稿に悩んだ人が、ネット上の知り合いに実話怪談について取材する実話怪談。冒頭のエッセイ(語り=作者本人)っぽさがすごくて、試し読みで読んだときは「これ作者さんによる前書き?」って思った。桐谷さん出てきて嬉しい。おせちで煽るとか、作中で毛について「怪談のモチーフとしては定番ですね」って言わせるの笑う。読み進めていくと、「あれ? この語り手って誰?」となる箇所があってぞっとする。好き。

      04 「恢覆」 国戸醤油市民
       植物人間となった語り手がクローンを使った治療方法を受けるが、という話。冒頭の「この話はいいか……」でもうがっちり掴まれてしまった。その話も聞かせてくれよ! 途中の喘ぎ声のシーンで爆笑した。「こんなことがあるのか」じゃないんだよ。あとは後半の絵が好き。大友アニメっぽいうねうね感。

      05 「毛想症」 Garanhead
       髪の毛に異様に執着する語り手が、同じように髪の毛に執着する女と出会う話。フェティッシュ。「遺伝子レベルで気が合う」がまさかの伏線とは。オチはちょっと狭くなってしまうようで個人的に微妙だったんだけど、後半を読んでから前半を読み返すと、居酒屋のシーンで破綻がなく、それどころかラブホのシーンで遊び心たっぷりに描き切っている点がうますぎる。

      06 「きざし」 鴻上怜
       さいきん髪の毛が薄くなってきた男の話。日常系ホラー。いやこれホラーか? 排水溝のシーンがホラーというには弱いし、やはりハゲていく、頭髪が薄くなっていくこと自体が恐怖なのか。確かに恐怖だけれども。
       些細なことを大袈裟に言う比喩表現がうまい。排水溝のあれを見てイザナギとイザナミの国生みを想起するのとか笑った。細部に神が宿るというか、語り手の生活が立体的に描き出されるとともに、斜に構えた姿勢が際立つようでにやにやさせられた。

      07 「新田くんのこと」 石井僚一
       髪の毛に執着する男の日常描写、なんだけれども。淡々と状況説明されていくホラー。手続きへの偏執に幾ばくかの共感と悪寒を覚え、悪寒に毛が絡みつつ増幅されていく。語りが面白く、「髪の毛を一本ずつ抜いていく新田だった。」という言い回しが面白い。状況的にまったく笑い事ではないところを含めてよい。

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        近況報告・文学フリマ情報

         ご無沙汰しております。最近サボり気味でしたが、月次の進捗報告がてら近況報告および告知をします。

        ■近況
        ・九月頃から一夜文庫さん主催のZINE『読みたい夜に』に寄稿しています。現在準備号と創刊号が発行済みで、小説、詩、エッセイ、写真等、静かな夜に読むのがぴったりな作品が集まっています。私は「夜に」というタイトルの作品に纏わる連作短編を書いています。だいたい2000字くらい目標で、各話完結です。

        ・11/16文学フリマ東京では、上記『読みたい夜に』ほか二つに参加しています。

         1) 藤井佯さん主催『鳩のおとむらい・鳩ほがらかアンソロジー』
         小説、詩歌、イラストなど七十七作品が集まった鳩アンソロジーです。多種多様な鳩があり、多種多様な視点があり、むちゃくちゃ面白いです。私は「鳩小屋騒動」というタイトルで一部鳩や全身鳩、脱皮する鳩などを書きました。イングリッシュポウターという強烈な見た目の鳩が出てきます。
         通販予約ページはこちら

         2) 谷脇栗太さん主催『鯨、コオロギ、人間以外』
         前回五月の文学フリマ東京で参加させていただいたアンソロジーで、「鯨、コオロギ、人間以外の歌」というレギュレーションとかっこいい表紙がよい感じです。各千字程度で八十四作品からなり、私は千字で「賛歌」という得体の知れない親子の終末探訪記を書きました。このたび増刷されたとのことで、おめでとうございます。


        ■十月の進捗
        ・『読みたい夜に』寄稿「夜に・詩の感想」提出。5600字。珍しく手応えがあった。

        ・「夜に」シリーズ次作、初稿完成。2800字。二稿以降アプローチを変えてみる予定だけど、どうなるか全くわからない。

        ・「鳩小屋騒動」2000字提出。後で読み直すと文字数の配分間違ってる、というのをよくやるので気をつけたい。

         総括として、上だけ見ると1万超えているが九月からの持ち越しが多く、十月のみだと5000くらいだろう。特に後半はやる気がすっかりなくなってしまった。八月から練っていた「詩の感想」への思い入れが強すぎて、提出後に軽くロスになってしまった(自作で!)のもある。
         十一月は工夫してモチベを上げつつインプットを増やしたい。

        JUGEMテーマ:小説/詩

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          姉の首

          「むかえきて えき」
           夜九時近く、姉からホラーじみたメッセージが届いた。ああ? とスマホを睨んでサンダルを履く。十日ぶりの外は蒸し暑く、虫の音がやかましい。
           田舎の無人駅まで走って五分。自転車の鍵をなくしたのが先月、捨て猫を見つけて途方に暮れたのが先々月。今日は姉の姿が見当たらない。列車が参りますアナウンスの後、轟音と質量の塊が闇を切り裂いていく。
          「駅のどこ?」メッセージを打つも既読スルー。
           発信。出ない。
          「おーい」既読。
          「そもそもなんでカタコト?」既読。
           イラッとして再度発信。かすかにスマホの振動音が聞こえた。柵の向こうだろうか。急ぎ足で改札に向かい、少し悩んでスマホをぴっとする。明滅する蛍光灯の下、薄暗いホームに人影はない。発信。小さく呼び出し音。誰もいないのに? じゃあさっきのメッセージは何よ。スマホ落として乗り過ごした? あの姉ならないとは言い切れない。でも既読ついてるぞ?
           音のする方へ近づく。ベンチの陰に点滅する光が見えた。転がるバッグに警戒レベルが跳ね上がる。弧を描く長い髪束、先には見慣れた後頭部。
           姉の頭だ。
           なんで? 身体は? バラバラ殺人事件?
           すると頭が振り返り、困ったような笑みを浮かべた。
          「あ、ユウちゃん。ごめん、なんか頭だけ? になっちゃって」
           は?

           姉の頭と荷物を抱え、インターホンで隣駅の駅員さんに連絡して改札を出る。首だけ姉を見られたらとハラハラしたが、幸い誰にも会わなかった。
           帰宅早々「お風呂入りたい」「おなかすいた」と我が儘放題の姉をシャンプーし、風呂上がりにアイスを食べさせる。同居歴二ヶ月の猫のミイが、姉の咥えたアイスの棒にじゃれつく。この事態を受け入れつつある自分に嫌気がさした。
           転がって移動する練習を始めた姉に尋ねると、帰りの電車で体を触られたのだと言う。降りる瞬間に首から下の感覚が失われて気づいたら頭だけだった、閉まる扉の向こうで首のない体に絡みつく手が見えた。表面上笑顔で語る姉の頭を抱きかかえる。悔しくて涙が溢れ、それから二人でわんわん泣いた。幼い頃、私を泣かせたいじめっ子の前に仁王立ちした姉。二人で迷子になったとき、私の手を引いて気丈に振る舞いながら実は震えていた姉。姉の体を奪った相手が、姉に体を切り捨てる選択をさせた世界が憎かった。
           涙を拭いて両手で姉の頭を掲げ、目を見て言う。行こう。姉が頷く。私たちは姉の体を取り返す。

          JUGEMテーマ:小説/詩



          短編第250期 1000字
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            | 一話完結 | comments(0) |

            『ちゃんとする』C1講義室

             BOOTHにて購入しました。

             総評として、とてもよかった。「ちゃんとする」というフレーズがゲシュタルト崩壊してだんだん可愛く思えてきたり(たぶん「ちゃん」のせい)、「ちゃんとするって何なんだ……?」と迷宮に迷いこまされたり、要所要所でぐっときたりと楽しく読みました。「ちゃんとする」というテーマから予想される通り、ちゃんとしない方が味わい深く、愛おしいな、などと思いました。最近誰彼かのエッセイで読んだ「文学は社会と世界の狭間に生まれる」というのを思い出しました。
             ところでタイトルの一致はさておき、モチーフの一致は示し合わせてるんでしょうか?

            ・雨下雫『ちゃんとする』
             石小説! 石が好きです。登場人物のふわふわした語り、特に「おおむね? だいたい?」のあたりのズラし方が最高でした。ちゃんとしてない、ブレブレのふわふわじゃないか! と思わせるのが巧すぎる。あとネーミングセンス、「セはわかるけどヌなんてある?」って思って読んでいくと実在とか歴史を叩きつけられるのすごい。ちゃんとする/しないの二項対立で終わらず、「おもさ」「おもい」というふわっとしたひらがなでもってアウフヘーベンする展開の妙よ。(調べたら古事記に出てくるんですね。かな表記と言葉遣いに納得しました。)
             それにしても作者さんの書かれるプレゼント失敗談は毎回抉られますね……私も心当たりがありすぎるので……。

            ・小島宇良『ちゃんとする』
             展開が速い。そこでそうなるの? みたいな変化球的パワーワードが一ページに十球くらい飛んでくる。こんなのずるいでしょ。笑う。幾分かのSFみを挟みつつ、物語のレイヤが移っていく展開に見事惑わされ、読んでいて楽しかったです。それからこちらは「ちゃんとしない」方向に吹っ切れていてとても爽快感がありました。

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